特に需要があるワケでもないシリーズですが今回もいきます。
今回は『マイレージ・マイライフ』をご紹介。
ビターなストーリーの中に人生に寄り添うような温かさも感じる大人のお仕事映画です。
初めて観た時「こういうのがもっと観たいんだよ~」って強く感じた事を覚えています。『サンキュー・スモーキング』で個人的に注目するべき監督となったジェイソン・ライトマンの2009年作品です。
(サンキュー・スモーキングも良いお仕事映画なのでいつか記事にしたい!)
特別ではないどこにでもいるような一般の人々。
そういった視点で描かれる日常的な温度感。
ベテランビジネスマンの人生の一コマから働く意味や人生の選択肢について考えさせられます。
皆が幸せになるために働いているのにズレてくる世間の不条理と、自分の信じていた価値観があるキッカケで180度変わってしまう瞬間を、人生を上手く乗りこなしてきたつもりの男の目を通して描かれます。
【あらすじ】
一年の殆どを出張で費やす男、ライアン・ビンガム。
彼の仕事は企業のリストラを代行すること。つまりクビ切り職人。
地に足のつかない生活を好み自由気ままな人生を歩むのが好きな彼は出張で貯めまくったマイルがもうすぐ夢の1000万マイルに到達しようとしていた。
しがらみのない人生が一番、そう考えていた彼の前に二人の女性が現れる。
一人は新人社員のナタリー。
もう一人は同じ出張族で大人の関係を気楽に楽しむ相手のアレックス。
ナタリーの発案した合理化案で1000万マイル達成が危うくなるライアン。
気が付くとアレックスをもっと深く知りたいと思うようになっていくライアン。
「バックパックに入らないものは背負わない」がモットーの彼が二人との出会いをとおして変わっていく様を描く。
そんな感じです。
【お仕事映画的な見どころ】
主人公が若いイケイケの新入社員の新しいやり方に疑問を呈するくだりは、社会人あるあるなので多くの人が共感できる場面でしょう。
ジェネレーションギャップとテクノロジーの進化が職場を変えていくという事が、どんな職場でも起きることを考えると社会人には日常レベルでのスリリングな出来事と言えます。
主人公は若手社員の未熟な部分を明らかにして過激なアイデアを導入するのは時期尚早だと認めさせますが、その後自分の仕事に同行してきた若手社員に自分たちの仕事の意味を伝えようとする姿勢はなかなか大したものです。
普通だったら動向もさせないし、同行しても煙たがるだけってのが関の山でしょう。
これらは仕事を通して得た経験がしっかりと人間を成長させている良い例と言えるのではないでしょうか?(マイルを貯めたいという邪な事情もあるけれど)
後半、主人公は逆に若手社員の説教で心を入れ替えて意外な行動をするのですが、ここら辺は主人公のお人好しな部分が出ていて甘酸っぱくも笑えるシーンです。
しかし、中年になっても他人の意見に耳を傾けることが出来る柔軟さを持っているとも考えられますから観賞している人の年齢にもよりますが何か考えさせられるシーンでもありますね。
【私の目標は、ただの逃避だったのかもしれない】
劇中に主人公には劇的なしょん感が訪れます。
ずっと夢見ていた瞬間。
しかしそれはあまり歓迎できない時に起きてしまいます。
「人生を賭して追いかけた事じゃなかったの?」と感じる人もいるでしょうが、この瞬間の直前に起きた事態が主人公の価値観を大きく変えていました。
「本当に欲しかったのは違うモノだったのかもしれない」
すごく複雑な感情が湧き上がってくるシーンです。
個人的には主人公が目標にしていた事が途中までピンときていませんでしたが、この後半のシーンで「主人公は自己実現を履き違えていたのかな?」と思いました。
今まで共感出来なかった部分もそれなりにあった主人公の言行にストンと腹落ちするシーン。
本当は自分が必要とするモノはわかっていたけれど、自分の生き方を変えなければそれは手に入らない。
しかし今の生き方を変えずに徹底すれば、ひとかどの者には成れそうだ。
じゃあ今の生き方を変えるような博打は利工じゃない。
そんな感じでしょうか?これってコンコルド効果なのかな?
なんだか滑稽だけれど、中年にはよくある引き返せない状態かもしれません。
でもこの作品ではそれに冷や水をぶっかけて身を覚まさせるワケです。
結果はどうであれ、もしここで立ち止まらずに突き進んだ先に幸せはあったのかな?と思うと個人的に大きな意味を持ったシーンだと感じています。
正解という軸で考えると思考がグルグル回ってエンドレスなことになりますが、考える事に意味があると思えればこの映画についてアレコレ議論してみるのも面白いのかもしれません。
【まとめ】
今回は映画『マイレージ・マイライフ』をご紹介しました。
如何だったでしょうか?
バリバリに働いているビジネスマンにこそ観て欲しい「人生の難しさのアレコレ」が詰まった良作です。
私たちは「何者かにならなければいけない」とか「目標を達成しなければいけない」といった風潮にプレッシャーをかけられる時代に生きていますが、この映画はそういった価値観を冷静に見つめなおす良いキッカケになるんじゃないかと思います。
人は人生の最期に成さなかった事を後悔すると言いますが、それって仕事で出世するの事なのか?
有名になる事?金持ちになる事?何をして成すな成さないというのだろう?
そんな根本的なことに目を向けたなら、もしかしたら毎日はもっと素敵なモノになるのかもしれません。
「ずっと頑張ってきたけれど、今更ながら働く事の意味がわからん」と感じたら、一回観てみてください。